コラム
公正証書遺言と自筆証書遺言の違いは? どちらを選ぶべきか弁護士が徹底比較
「遺言書を作りたいと思っているが、公正証書遺言と自筆証書遺言のどちらにすればいいのかわからない」「自分で書いた遺言書では効力がないのではないか」——こうした疑問を持つ方は非常に多くいます。
結論から言えば、どちらの形式でも法律上有効な遺言書を作ることができます。ただし、それぞれに要件・メリット・デメリット・向いているケースが異なり、状況に合わない選択をすると遺言書が無効になったり、遺族が手続きで困ったりすることがあります。
本記事では、公正証書遺言と自筆証書遺言のそれぞれの特徴・具体的な違い・どちらを選ぶべきかの判断基準・よくある失敗例まで、奈良市の高の原法律事務所の弁護士が詳しく解説します。
① そもそも遺言書はなぜ必要か
遺言書は、自分の財産を死後にどう処分するかについての意思を法的な形で残す書類です。遺言書があれば、相続人間の話し合い(遺産分割協議)なしに、遺言書の内容に従って財産を分けることができます。
遺言書がない場合、財産は法定相続分に従って相続人全員で分けることが原則となり、全員の合意がなければ遺産分割協議書を作成することもできません。特定の人に財産を多く残したい・法定相続人以外(孫や内縁のパートナーなど)に財産を渡したい・事業を特定の後継者に任せたいという希望がある場合は、遺言書を作ることが不可欠です。
遺言書で指定できる主な内容
- 誰にどの財産を渡すか(遺産の分割方法)
- 法定相続人以外への財産の贈与(遺贈)
- 認知(婚外子を法的に子として認める)
- 未成年の子どものために後見人を指定する
- 遺言の内容を実行する「遺言執行者」の指定
遺言書がある場合でも「遺留分」は侵害できません。
遺留分とは、配偶者・子ども・父母が法律上最低限受け取れる割合のことです。
遺言書で「すべての財産を長男に」と書いても、他の相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。
遺言書を作成する際は、遺留分への配慮も欠かせません。
② 自筆証書遺言とは——自分で書く遺言書
自筆証書遺言とは、遺言者が遺言の全文・日付・氏名を自分で手書きし、押印することで作成できる遺言書です。費用がかからず、いつでも一人で作れることが最大のメリットです。
自筆証書遺言の成立要件
- 全文を自筆で手書きすること(パソコン作成は原則不可。ただし財産目録のみパソコン可)
- 作成した日付を自筆で書くこと(「〇月吉日」などの曖昧な記載は無効)
- 氏名を自筆で署名すること
- 押印すること(実印でなくても有効だが実印が望ましい)
自筆証書遺言のメリット
- 費用が一切かからない
- 公証役場や証人が不要なため、内容を誰にも知られずに作成できる
- いつでも・どこでも作成・変更・撤回できる
- 2020年より法務局での保管制度(法務局保管制度)が利用可能になり、紛失・改ざんのリスクを減らせる
自筆証書遺言のデメリット
- 形式の不備(日付の曖昧さ・押印漏れ・ページ番号のずれなど)で無効になるリスクがある
- 法務局に保管しない場合は紛失・偽造・隠蔽のリスクがある
- 法務局に保管した場合を除き、相続開始後に家庭裁判所での「検認」手続きが必要
- 内容が不明確だと遺族の解釈が分かれてトラブルになることがある
③ 公正証書遺言とは——公証人が関与する遺言書
公正証書遺言とは、遺言者が公証役場に出向いて公証人(法律の専門家)に遺言の内容を伝え、公証人がその内容を遺言書として文書化する形式です。2人の証人の立会いが必要で、費用もかかりますが、最も安全・確実な遺言書の形式です。
公正証書遺言の成立要件
- 公証役場で公証人の面前で内容を述べること(口授)
- 公証人が遺言者の口述を筆記し、遺言者・証人に読み聞かせまたは閲覧させること
- 遺言者・証人2人が署名・押印し、公証人が署名・押印すること
- 証人は推定相続人・受遺者とその配偶者・直系血族などは不可
公正証書遺言のメリット
- 公証人が内容を確認するため、形式の不備で無効になるリスクがほぼない
- 原本が公証役場に保管されるため、紛失・偽造・隠蔽のリスクがない
- 家庭裁判所での検認が不要なため、相続開始後の手続きがスムーズ
- 遺言者が自書できない状態(病気・高齢・障害など)でも作成できる
公正証書遺言のデメリット
- 公証人手数料がかかる(財産の額によって異なるが数万〜十数万円程度)
- 証人2人が必要なため、適切な証人を確保する手間がある
- 公証役場に出向く必要がある(出張対応は可能だが費用が増す)
- 内容を証人に知られる可能性がある
④ 2つの遺言書を徹底比較
| 比較項目 | 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 |
| 費用 | ほぼ無料(法務局保管は1件3,900円) | 公証人手数料数万〜十数万円 |
| 作成の手間 | 一人でいつでも作成可能 | 公証役場への来訪・証人2人が必要 |
| 無効リスク | 形式不備による無効リスクあり | ほぼなし(公証人が確認) |
| 保管 | 自己管理または法務局保管 | 原本を公証役場が保管 |
| 紛失・改ざんリスク | 法務局保管以外はリスクあり | ほぼなし |
| 検認手続き | 法務局保管以外は必要 | 不要 |
| 作成時の制約 | 自書できる人のみ | 自書できない人も作成可能 |
| 秘密性 | 高い(内容を誰にも知られない) | 証人・公証人に内容が伝わる |
⑤ どちらを選ぶべきか——ケース別の判断基準
「どちらが優れているか」という問いに一概に答えることはできません。自分の状況・財産の内容・家族関係に合わせて選ぶことが重要です。
自筆証書遺言が向いているケース
- 財産がシンプルで遺言内容も明確(例:自宅は妻に、預貯金は子ども2人で半分ずつ)
- 費用をできるだけかけたくない
- 遺言の内容を誰にも知られたくない
- 法務局の保管制度を利用する前提で、形式不備のリスクをカバーできる
公正証書遺言が向いているケース
- 財産の種類が多い・不動産・株式・事業承継など複雑な内容を含む
- 相続人間でトラブルが予想される・争いを防ぎたい
- 遺言書の紛失・改ざん・隠蔽が心配
- 高齢・病気などで自書が難しい状態にある
- 確実に遺言書を有効にしておきたい・遺族の手続きを楽にしてあげたい
迷ったら公正証書遺言を選ぶことをお勧めします。
自筆証書遺言は費用こそかかりませんが、形式不備による無効・紛失・検認手続きの手間など、後から問題になるリスクが公正証書遺言より高いのが実情です。
特に財産が多い・家族関係が複雑・相続人間のトラブルが懸念されるケースでは、
公正証書遺言を弁護士とともに作成することが最も安心です。
⑥ 自筆証書遺言でよくある失敗例
自筆証書遺言は手軽に作れる反面、形式の不備で無効になるケースが多くあります。よくある失敗パターンを確認しておきましょう。
失敗例① 日付が曖昧・記載がない
「令和〇年〇月吉日」「2024年秋」など、正確な日付が特定できない記載は無効です。「令和〇年〇月〇日」と年月日を明確に記載してください。遺言書が複数存在する場合に日付によって新旧の判断をするため、日付の正確さは非常に重要です。
失敗例② 自書していない部分がある
遺言の本文をパソコンで作成したり、他人に代筆させたりした部分は無効です。ただし、2019年の民法改正により、財産目録に限ってはパソコン作成・通帳の写しの添付などが認められるようになりました。その場合は全てのページに署名・押印が必要です。
失敗例③ 押印がない・スタンプ印のみ
押印がない遺言書は無効です。シャチハタ(スタンプ式の印鑑)でも法律上は有効とされますが、後々のトラブルを避けるためにも実印の使用が強く推奨されます。
失敗例④ 内容の訂正方法が間違っている
遺言書の内容を書き直す場合、修正箇所を二重線で消して横に訂正内容を書き、訂正印を押し、「〇行目〇字削除・〇字追加」などと付記する必要があります(民法968条)。修正液・貼り紙・消しゴムによる修正は無効の原因になります。書き間違えたら一から書き直すのが最も安全です。
⑦ よくある質問
Q. 遺言書を作った後で内容を変更したい場合はどうすればいいですか?
A. 遺言書はいつでも新しいものに書き直すことができます。同じ内容について複数の遺言書が存在する場合は、原則として最も新しい日付のものが有効とされます。公正証書遺言を変更する場合は、新たな公正証書遺言を作成するか、自筆証書遺言で変更部分だけを記載した「遺言書の撤回・変更の遺言」を作ることも可能です。変更する場合は弁護士に相談することをお勧めします。
Q. 法務局の遺言書保管制度とはどのようなものですか?
A. 2020年7月から始まった制度で、法務局(遺言書保管所)に自筆証書遺言を保管してもらうことができます。保管料は1件3,900円です。法務局に保管した遺言書は、相続開始後に家庭裁判所での検認が不要になります。また、遺言者が亡くなった後に相続人が遺言書の存否を確認・閲覧できる仕組みも整っています。紛失や偽造のリスクを大幅に減らせるため、自筆証書遺言を選ぶ場合はこの制度の利用を強くお勧めします。
Q. 認知症になってしまった場合、遺言書は作れますか?
A. 認知症と診断されていても、遺言書作成時点で遺言能力(遺言の内容を理解して判断する能力)があれば、遺言書を作成することは可能です。ただし、後から「作成時に能力がなかった」として無効を争われるリスクがあります。認知症の症状がある方が遺言書を作る場合は、医師の診断書を取得したうえで公証人の関与のもと公正証書遺言を作成することが最も確実です。
Q. 弁護士に遺言書の作成を依頼するメリットは何ですか?
A. 弁護士に依頼することで、①遺言の内容が法律的に有効であるかの確認、②遺留分を考慮した公平な内容の設計、③公正証書遺言の場合は公証人との連携・証人の手配、④将来の相続トラブルを予防する内容の設計、⑤遺言執行者への就任まで、一貫してサポートを受けることができます。特に財産が多い・家族関係が複雑・特定の人に特別な配慮が必要なケースでは、弁護士への依頼が結果的に家族のトラブルを防ぐことにつながります。
まとめ
遺言書は「作ること」そのものが重要ですが、形式を間違えると無効になってしまいます。本記事の要点を振り返ります。
- 自筆証書遺言は費用がかからず手軽だが、形式不備で無効になるリスク・紛失リスクがある
- 公正証書遺言は費用・手間がかかるが、無効リスクがほぼなく検認も不要で確実
- 自筆証書遺言を選ぶ場合は法務局の保管制度を活用することで安全性が大幅に向上する
- 財産が複雑・家族関係が複雑・相続トラブルが懸念されるケースでは公正証書遺言が推奨
- 自筆証書遺言では日付・全文自書・押印の3要素が必須。訂正方法にも厳格なルールがある
- 認知症になる前に早めに作成することが、有効な遺言書を残すための最善策
「遺言書を作りたいが、どちらの形式が自分に合っているか判断できない」「自分で書いた遺言書が有効かどうか確認したい」「家族のためにできるだけトラブルを避けたい」——遺言書に関するご相談は、高の原法律事務所にお気軽にお問い合わせください。




